専門家の介入が肺炎予防に

介護施設に入所する要介護高齢者に対して、専門的口腔ケアを実施したグループと、実施しないグループに分けて2年間にわたって調査した結果が下記のグラフです。

グループのいずれも介護職や、看護師による毎食後の口腔ケアを行っています。その他に週1回、歯科医師及び歯科衛生士による専門的口腔ケアを加えて実施したグループと、そうでないグループを、同じ指標で比較したものです。

発熱発生率、肺炎発症率、肺炎死亡率を専門的口腔ケアで大幅減少

専門的口腔ケアを実施したグループは、全ての指標で明らかに減少していることを示しています。その中でも肺炎死亡率は、専門的口腔ケアによって約54%も減少しています。こうした結果から研究者らは普段の口腔ケアに加え、専門家が介入して実施する専門的口腔ケアを併せて実施していくことが肺炎予防につながると結論付けています。

誤嚥性肺炎の起炎菌となっているのは歯周病菌などの口腔内常在菌です。特別なことがなくても負担からお口の中にいる菌ということです。口腔疾患を治療せずに放置していたり、不衛生のままにしておくと細菌叢が増加し、肺炎リスクを高めてしまう結果となります。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

ご存じですか?誤嚥性肺炎

国の統計によると「肺炎」は、悪性新生物(がん)、心疾患に次ぐ第3位の死因です。これは脳梗塞(のうこうそく)や、脳卒中(のうそっちゅう)などの脳血管疾患を上回っています。

「誤嚥性肺炎」死因別死亡数の割合 平成26年度 人口動態調査

肺炎は、ウイルスや細菌などの病原微生物が肺に感染し、炎症を引き起こして発熱などを起こす病気です。病原微生物は鼻や口から空気とともに気管に侵入しますが、健康な場合は抵抗力があるために体内の防御反応によって排除され、肺まで到達せずに発症せずに済む場合もあります。しかし病気や加齢、粘膜の乾燥によっては免疫力や、抵抗力が低下して、防御機能が正常に働かずに、結果として肺炎に罹ってしまいます。

この肺炎は、原因となる細菌やウイルスや、他の全身疾患が原因となるものなど多くの種類があります。その中で高齢者にとって割合の多い肺炎の中に「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」があります。誤嚥性肺炎とは、嚥下機能の低下などによって食物や胃の内容物が誤って気管に入り、肺に到達することで炎症が引き起こされる肺炎の種類です。

70歳以上の高齢者が一般の生活の中で発症した肺炎のうち、80.1%が誤嚥性肺炎であるという調査結果もあり、高齢者にとってはより身近で、注意しなければいけない病気です。高齢になると肺炎発症による身体的、精神的負担は非常に大きくなり、入院となるとご本人だけでなくご家族にも負担が増え、経済的な負担も増えます。

誤嚥性肺炎の予防方法とは

歯を失う最大の原因は…

歯を失う最大の原因はむし歯ではなく、『歯周病』

財団法人8020推進財団がまとめた「歯を失う原因」で、最も多かったのが歯周病の41.8%です。次に多いものからう蝕(虫歯)が32.4%、破折(強い衝撃などによって歯が折れたり、欠けたりすること)11.4%、矯正歯科治療などの上記以外の原因が14.4%でした。

日本人が歯を失う原因(歯周病、むし歯、破折、歯科矯正他)
最大の原因である歯周病は日本人の国民病とも言われており、成人の約4人に3人が罹患しているとも言われています。この歯周病が歯の寿命に大きな影響を及ぼしていることは明らかですが、実は加齢とともにそのリスクは増大しているのです。

折れ線グラフでは先ほどの調査を10歳毎の年齢階級別に再分類したものです。そのグラフを見ると加齢により、各原因の占める割合が変化しています。

年齢階級別の歯の喪失原因(歯周疾患、齲蝕、歯の破折、矯正歯科治療や全身疾患が原因)
44歳までの歯を失う原因で最も多いのは「う蝕(むし歯)」です。しかし、45歳からの年齢階級を見るとう蝕と歯周病が逆転しています。また歯周病は45歳以上から1位をキープし続けています。また55歳以上の年齢階級に注目すると、歯を失う原因の半数以上が歯周病に因るものだったという結果が明らかになっています。

結果的に歯を失うと以下のようなトラブルにつながる場合があります。
・食べ物が噛み難くなった。
・のどに食べ物を詰まらせることが増えた。
・声が聞き取りにくくなった。

このように日常生活において支障をきたすことも起こります。さらに近年の医学研究によって、歯周病菌肺炎の起炎菌となるばかりではなく、脳梗塞や、脳血管性認知症、狭心症、心筋梗塞、細菌性心内膜炎、糖尿病、バージャー病、関節リウマチ、骨粗鬆症、胎児の早産など、疾患を引き起こしたり、病気の悪化や重症化を招くことが明らかになってきており、全身に対して大きな影響を与えている口腔疾患なのです。

歯肉炎など軽度な状態であればブラッシング励行や、歯周疾患処置、専門的口腔ケア等でも改善していく場合が多いですが、歯周病がより悪化してしまうと外科処置が必要となる場合があります。外科処置となるとご本人の身体的、精神的な負担が発生します。

歯周病は自覚症状を感じにくい口腔疾患であるために、日頃より歯科の専門職による定期的な検査や、早期発見の為にも日頃から連携や介入の体制を整えておく環境作りが重要です。

入れ歯の使用と認知症

入れ歯を使用していない人の認知症発症リスクが上昇

厚労省研究班が愛知県の健康な65歳以上の高齢者 4425 名を継続的に調査し、データを分析したところ、認知症発症に影響する年齢、治療疾患の有無や生活習慣を考慮したリスク度合いの計算で20 歯以上の人に対して歯がほとんどなく義歯未使用の人の認知症発症リスクは 1.9倍※に上昇したという報告があります。

※平成22年度の厚生労働科学研究 主任研究者:近藤克則氏 日本福祉大学 教授
神奈川歯科大学 社会歯科学講座歯科医療社会学分野 准教授 山本龍生氏 2011/1/7付 プレスリリースより

かかりつけ歯科医院の有無と認知症

かかりつけ歯科医院がない人は、認知症発症リスク上昇

厚労省研究班が愛知県の健康な65歳以上の高齢者 4425 名を継続的に調査し、データを分析したところ、認知症発症に影響する年齢、治療疾患の有無や生活習慣を考慮したリスク度合いの計算で、かかりつけ歯科医院のある人に対して、無い人の認知症発症リスクが1.4倍に上昇したという研究報告があります。