大病のサイン?ドライマウスの症状と原因

空気が乾燥するこの季節、お口の渇きを感じることも多いと思います。口が乾燥すると風邪を引くと言われますが、これには粘膜の乾燥が大きく関係しています。のどの粘膜の表面には、ウイルスや細菌などの異物を外に出す働きをする線毛があります。乾燥気味になると線毛の動きが悪くなるため、ウイルスや細菌が侵入しやすくなります。侵入したウイルスや細菌が粘膜で炎症を起こし、結果として風邪やインフルエンザを発症してしまいます。
ドライマウスは長期間にわたり、口の中が乾燥している状態です。発症の原因はさまざまですが、全身疾患の症状として現れる場合もあります。

ドライマウスは「口腔乾燥症」とも言い、唾液の分泌量が減るなどして口の中が乾燥する状態を指します。乾燥以外にも口臭を強く感じたり、舌に痛みを感じたり、口の中がネバつく、薄い味がわからない、パサパサした食品が食べづらいなどの症状を伴うこともあり、正確な疫学調査はないものの800〜3000万人程度の潜在患者がいると推定されています。口腔乾燥症の評価や検査方法には安静時唾液検査やガムテスト等がありますが、簡単に出来るものが以下の客観的口腔乾燥の4段階評価です。

口腔乾燥の臨床診断基準

 

ドライマウスの潜在患者は中高年の女性に多いとされ、最近では若い人でも増えているそうです。食生活の変化や、生活リズムの乱れ、精神的な緊張やストレスの多い日常生活が関係しているようです。

高齢者が発症するドライマウスの主な原因

加齢にともなって口を動かす機会が減ったり、口腔周囲筋が衰えると唾液の分泌量が減少します。唾液分泌量の低下は咀嚼効率を低下させ、「よく噛み、よく食べる」ことに支障をきたします。また特に高齢者の場合、食生活が原因となることがあります。固いものよりも柔らかいものを多く食べることが、顎や舌の筋肉の衰えを早めます。糖尿病や脳出血、脳梗塞による麻痺、シェーグレン症候群等の疾患によって症状が現れたり、鎮痛薬、抗うつ薬、向精神薬、降圧薬、利尿薬等の副作用が原因となる場合もあります。

口の渇きを長く感じている方は糖尿病や脳卒中などの疾患が隠れている場合もあるので、早めに通院されることをおすすめします。ドライマウスの予防にはこまめな水分補給や、噛み応えのある食事を摂る、アルコールを適量にするなどありますが。特に高齢者の場合は唾液腺マッサージで分泌を促したり、口腔ケアの実施で口腔周囲筋へ刺激を与えることも効果的です。入れ歯が合っていないとしっかり噛めず、十分に唾液が分泌されないこともあります。正しい噛み合わせを維持するためにも、定期的に検診を受けましょう。

歯の平均寿命も過去最高

平均寿命が年々上昇していますが、残っている歯の割合も増え続けています。平成29年6月に厚生労働省が発表した歯科疾患実態調査結果の概要によると、80歳になっても自分の歯が20本以上ある人の割合が、前回調査の40.2%から51.2%に増加して調査毎に過去の数値を更新し続けているとのことです。

20本以上の歯を有する者の割合の年次推移
20本以上の歯を有する者の割合の年次推移

 

年齢層別グラフの中で80~84歳を見ても平成5年の11.7%から平成28年には44.2%へと23年間で約4倍、85歳以上では9倍以上も上昇しています。
複合的な要素があると思いますが、この間歯科医院の数が劇的に増えたこともなく、また日本における成人歯科健診の実施率および受診率が低い事を考えると、一人一人の予防意識の高まりや歯科治療技術の進歩によって、歯の寿命も延びていると考えられます。

 

歯の寿命が延びることで一番その価値を感じられるのが、

美味しく食べられる。

ことです。経験者である高齢者に聞くと、歯があるうちは美味しく食べられて当然と思っているのでなかなか気付かないが、失ってみると歯のある有難さに気付くのだそうです。また何度か触れてきた話題ではありますが、歯があると発声がしやすい、窒息リスクを減らせる、奥歯があると転倒しにくくなったり全身疾患に罹りにくいなど、生活上でさまざまな恩恵を受けているのです。
下の表は、故・加藤順吉郎医師が平成7年に愛知県内の施設で実施したアンケートを集計したものです。

要介護高齢者の日常生活における関心事(施設でたのしいこと)
要介護高齢者の日常生活における関心事(施設でたのしいこと)

 

施設等で介護を受ける高齢者にとって一番楽しいことは「食事」です。しかし楽しく食事をとり続けるためには、口腔内を衛生的に保っておかなければ美味しさを感じられません。美味しさを感じられないということは、一番の楽しみを奪うことになります。だからこそ、日々の清掃活動というのは非常に大きな意味を持つのです。
一度失った歯は戻ってきません。その時になってはじめて事の重大さに気がつくのでは遅いのです。歯科疾患の早期発見の為にも、かかりつけの歯科医院を持って、定期的に検診やクリーニング、メインテナンスを受けましょう。

身体機能の低下につながるオーラル・フレイル

サルコペニアは、高齢者における加齢性筋肉減弱現象を意味する医療用語です。加齢や病気に罹ることで筋肉量が低下し、全身の筋力低下または身体能力の低下が起こることを指します。具体的には歩くスピードが遅くなったり、物を掴む手の握力が落ちたり、重いものを持ち上げられないなど、日常生活の動作(ADL)が制限されることで、寝たきりや転倒骨折などを起こすリスクが高まる状態です。最近では口腔以外の筋力低下に関する検査項目が、後期高齢者向け歯科検診に追加されている地域もあります。

この検査項目の一つに東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢氏らが考案した「指輪っかテスト」があります。専用の検査器具など要らず、ご自分の身体を使って高齢者自身が早期に気付くことが出来る簡便な自己判定方法です。
以下の方法を参考にして、是非ご自身でお試し下さい。

指輪っかテスト
指輪っかテスト

 

サルコペニアとは別に体重の減少や歩行スピードの低下、筋力(握力)の低下、疲労感、身体の活動性の低下など広範な要素を含んだ虚弱状態をフレイルと呼び、介護支援を必要とする高齢者を早期に発見して生活機能の維持・向上を図る為にも、共通の目安作りが進められています。

歯科の分野においても口腔機能の虚弱を「オーラル・フレイル」と呼ぶようになってきています。加齢に伴う身体機能低下(サルコペニアやフレイル)の過程において、口や歯の管理を疎かにすることで噛む力が低下し正しく栄養が摂取出来ない状態となったり、舌の動きなどの口腔機能の低下から発語に支障をきたすことで人との交流を避け閉じこもりになるなど、オーラルフレイルとの関連が強いことがわかっています。

お口のトラブルをきっかけとした生活機能低下の悪循環モデル
お口のトラブルをきっかけとした生活機能低下の悪循環モデル

 

重要なのは噛む力を維持していくためにも歯を失わないことです。その為には日頃から正しい口腔清掃を心掛けることと、もし歯周病やむし歯などで歯を失ったとしても適切な処置を受けることで噛み合わせは維持出来ます。定期的に歯や口の健康状態をかかりつけの歯科医師に診てもらいましょう。

 

噛み合わせの状態と健康長寿の関係

「よく噛んで、よく食べる」ことが健康をもたらすと一般的に言われていますが、
その理由としてあがるのは噛むことで脳への血流が増えると脳が活性化され、結果として活動的になったり、よく食べることで高齢者に起こりやすい低栄養の予防になるからです。しかしこの「よく噛む、よく食べる」ことを実現するためには、そもそも上の歯と下の歯が正しく噛み合っていることが重要なのです。今回はこの「噛み合わせ」に注目します。

「噛み合わせの異常がアルツハイマー病の原因であるアミロイドβを海馬に増加させる」ことが、アメリカの医学雑誌にて2011年に掲載されました。発表したのは岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の森田学教授らの研究グループで、噛み合わせの異常モデルを作り出した動物には血液中のストレスホルモンが増加し、このストレスによる刺激で脳の海馬にアミロイドβが増加することが明らかになりました。海馬とは脳内にある器官で、脳の記憶や空間学習能力に深く関係していると言われています。

アミロイドβが海馬に増加するメカニズム
アミロイドβが海馬に増加するメカニズム

また同研究グループでは噛み合わせを回復した逆のケースも調査しており、噛み合わせの問題を取り除くことでアミロイドβの蓄積が減少したことも突き止めています。
認知症を有する高齢者は15年で2倍以上に増加しています。認知症には原因別に幾つかの種類がありますが、最も多いのはアルツハイマー病です。国内の認知症有病率、罹患率のうち、4割~6割をアルツハイマー病が占めていると言われています。

 

認知症を有する高齢者人口の推移
認知症を有する高齢者人口の推移

このように噛み合わせが悪いとアルツハイマー病を発症するリスクが高まります。この他にも重度の歯周病は動脈硬化リスクが高いことが報告されていますが、高齢者を対象にした臼歯咬合崩壊(奥歯の噛み合わせが無い状態)の研究においても、歯周病の状態とは独立して臼歯咬合崩壊と動脈硬化症が関連していることが示されています。
つまり噛み合わせの悪い状態で生活していると、お口の中だけでなく全身へも悪影響を及ぼします。逆に歯医者に通って適切な治療を行い、正しい噛み合わせへと改善出来れば、そうした疾病リスクを予防出来るのです。

 

[Q&A]舌につく白い汚れは何ですか?

舌表面に付着している白色または茶褐色の汚れは舌苔(ぜったい)と呼ばれる苔状の汚れです。舌苔の付着原因は、その方の全身状態や服薬、口腔内の状態(唾液量や乾燥の度合い)など様々です。
普段使っている歯ブラシで除去清掃すると嘔吐反射が起こったり、また除去する程度についても判断がつきにくい為に、専門職種ではない介護現場の職員にとって舌のケアは難敵です。更に開口量が小さい、開口保持が難しい場合には汚れの程度や範囲すら判断出来ません。

では自然に減少するのを待てばいいのでしょうか?

2015年に「舌苔の付着面積が大きい人は、呼気中のアセトアルデヒド濃度が高い」ことを岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の研究グループが突き止めました。口の中のアセトアルデヒドは、口や喉の癌の原因となることが指摘されており、舌を清掃することは非常に重要なことです。

日常的な口腔ケアでは難しい専門性を伴うケアには、専門職種である歯科医師、歯科衛生士との連携の下で進めていきましょう。

[Q&A]食後すぐの歯磨きは良いの?悪いの?

数年前からテレビ番組やインターネット上では~食後すぐの歯ブラシは歯を削ってしまうので良くない~という報道や、記事が増えています。詳しく調べてみると、アメリカの歯科医師が食事中に炭酸や酸性ソフトドリンクを飲んで食後20分以内に歯ブラシするとエナメル質や象牙質に酸が届き易く、飲まない時に比べて歯を早く溶かしてしまうというインタビュー記事がきっかけとなっているようです。

しかし日本において、また特に高齢者がご自身で作る食事や介護施設で提供される食事で、こうした炭酸や酸性ソフトドリンクを飲みながら食事するという習慣はあまりないように思います。

そもそもお口の中は食後すぐに酸性となります。その後は唾液の緩衝作用により1時間程かけて徐々に中和され、カルシウム等が供給されることで再石灰化が行われます。一方で食事によって栄養素が取り込まれた温かく湿ったお口の中は、ウイルスや細菌の増殖に最適な環境です。

歯の摩耗を心配するよりも抵抗力や唾液分泌量が低下しやすい高齢者にとっては、出来るだけ早く口内清掃を行ってもらうことの方が大事です。