[Q&A]新しい入れ歯を無くしてしまったら

介護施設のスタッフから「新しく作った入れ歯を無くしてしまったようで、もう一度作り直せますか?」と聞かれることがあります。認知症が進むと入れ歯を口の中の異物として認識するためか、外して洋服の中に隠したり、更にはゴミ箱に捨てたという話も聞きます。たまたま誰も気付かずに廃棄してしまうと、新しく作り直すしかありません。

ご家族も同意の上で歯医者に作り直しを依頼しても、実際には保険が適用出来ないケースが存在します。それは前回の入れ歯の製作開始時の歯型取りの日から6ヶ月以内の製作については保険診療が適用出来ないという保険制度上のルールがあるからです。なお、違う部位であれば製作は可能です。

特に自己管理が難しい方については、新しい入れ歯を使い始めてから慣れるまでの間、保管場所や着脱のタイミングを本人に代わって管理する方が必要です。

歯の再生医療

以前から歯の再生医療に関する発表はありましたが、今年の3月にビーグル犬の幹細胞から作った歯のもとである「歯胚(しはい)」を使って構造・機能的に完全な歯を再生させることに成功したと、岡山大学と理化学研究所の研究グループが発表しました。
これまでは歯の喪失に対し、入れ歯やブリッジ、人工歯根を用いて機能を代替してきました。しかし咀嚼や嚥下の根本的な機能回復の必要性から生物学的な歯の再生への期待を背景にして、研究が進められてきたそうです。

同様の研究はマウスでの成功例が発表されていましたが、大型動物の成果は初めてとのことです。これによって研究はさらに進展していくと言われているそうですが、実際には若齢期の歯胚細胞を利用した研究であって歯を失った成人・高齢者へ適応される技術となるまでには越えなければいけない課題は多いようです。効果的な治療法として早期に確立して欲しいと思いますが、人体での実用化はまだまだ先の話です。

[Q&A]使用休止中の入れ歯の保管方法は?

高齢になると様々な病気に罹ってしまうことがあり、療養中には入れ歯を使用を休止することがあります。風邪やインフルエンザの場合は1週間程度、点滴など経口摂取出来ない状態が続く場合はさらに長くなります。長い期間入れ歯の使用を休止する場合、どのように保管するのが良いのでしょうか?

1,2週間程度であれば保管ケースに水を張り、1日置きに水を交換しましょう。水は頻繁に交換して下さい。しかし長期間となると水の交換作業が負担となったり、忘れてしまうこともあります。季節によっては綺麗な水を張っていても直ぐに細菌やカビが繁殖してしまいます。カビが生えてしまうと入れ歯の細かい溝にまで根を張ってしまい、洗浄しても落ちません。長期間となる場合は十分に入れ歯を乾燥させて、外気に触れないよう密封パックなどに入れて保管して下さい。

体調が回復しても生体の変化、あるいは入れ歯の変形によって適合しない場合があります。入れ歯の使用を再開する前には、必ず歯科医師による状態の確認や調整を行った上で使用するようにしましょう。

[Q&A]嘔吐した入れ歯の洗浄方法は?

ノロウイルスの感染によって嘔吐した際、吐しゃ物の中に入れ歯があったという話を聞きます。口を大きく開けた状態のところに胃の内容物が逆流してくる為、入れ歯を外へ押し出してしまうからです。吐き出された入れ歯にはウイルスが付着しているので、洗浄が終わるまでは使用を控えます。

厚生労働省によると消毒方法として以下の2つが挙げられています。
・85℃・1分間以上の熱を加える
・次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)

但し、入れ歯はプラスチックで出来ているため熱を加えると変形します。せっかく体調が回復しても入れ歯が変形したことで食べられなくなっては元も子もありませんので、液体での消毒を行いましょう。ノロウイルス用の消毒液も市販されていますが、家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤でも代用出来ます。プラスチック製品の除菌であれば30秒~1分程度の浸け置きで良いとされています。長時間浸け置きすると漂白による変色の可能性もあります。消毒を行う前には、「使用上の注意」を必ず確認して下さい。

[Q&A]胃ろうに口腔ケアは不要ですか?

何らかの原因によってお口から物を食べれない場合に、チューブを通して体内に直接栄養を送る方法として胃ろうの他にも、経鼻、経腸などがあります。チューブによって栄養摂取するため、お口を使って食事することがなくなります。そこで口腔ケアの必要がないと思われているのかもしれません。

口腔内には健常者であっても常に細菌やカビ、ウイルス、原虫がいます。その細菌等には自分の身体を守ってくれる者もいますが、悪影響を与える者もいます。特に細菌やウイルスは暖かく湿った場所で増殖します。

経口摂取していない場合でも唾液や痰は出ますし、ごく稀に栄養剤や胃液、胃の内容物が逆流して口腔内に溜まることがあります。不衛生で湿ったお口は細菌等を増殖させ、歯肉炎や歯周病、むし歯などの歯科疾患を引き起こし、更には肺炎や動脈硬化など全身疾患を引き起こす原因にもつながります。
つまり非経口摂取の状態であっても、常にお口を衛生的に保つようケアをしなければなりません。またもし入れ歯をお持ちであれば、適合状態の維持と共に嚥下・咀嚼機能改善にも効果が期待出来るため装着を続けましょう。

[Q&A]入れ歯に寿命はありますか?

入れ歯は使用する人のお口の形状や残った歯の数に違いがある為一人ひとりオーダーメイドで製作されます。その為使用する人のお口の状態が変われば当然入れ歯も合わなくなります。

これを歯科では義歯の不適合状態と言います。ただ不適合になったとしても粘膜面の調整や増歯等の修理、割れてしまったとしても破損状態によっては金属等の補強線を付け加えて対処出来る場合もあります。修理が出来るかどうかは入れ歯とお口の状態にもよるので、必ずかかりつけの歯科医に相談しましょう。

長年同じ入れ歯を使用していると入れ歯を支えるご自身の歯や歯茎の土手の高さや幅が変わったり、また咬む面が擦り減って平らになります。こうなると新しく作り直す他ありません。入れ歯の寿命は使用状況や口内変化の状況によっても異なりますが、10年も持てば長い方と言われています。

咬む面が平らになってしまうと、当然ですが食べ物を噛み砕く能力は低下します。日頃から定期的なメインテナンスを行っておくと共に、咬む面が擦り減って平らになっていないかを観察しておきましょう。

[Q&A]入れ歯は寝る時に外す?つけたまま?

入れ歯を寝るときにつけていないと不安という方が居れば、違和感を感じるので外して寝たいという方もいます。歯科医師が普段と逆の指導をしたとしても、長年の生活習慣はそう簡単には変えられないものです。

では就寝時の義歯装着は、付ける、付けない、どちらが正しいのでしょうか?

歯茎や粘膜を休ませるためや、小さな部分入れ歯や、適合せずに外れやすい入れ歯など、その時の状態や形状によっては誤飲する可能性があるために外しておく等、装着しないことを勧める場合があります。逆に、噛み合わせに不具合が生じるから出来るだけ装着しておく場合や、顔の形が変化する、夜間の緊急時に持ち出し忘れがない、紛失しない為という理由から装着を勧める場合もあります。

最近では嚥下機能の観点から「噛み合わせがあると飲み込みが良くなる」ことから、常時装着を勧める場合が増えてきています。

結論としては、入れ歯の形状や、ご自身での管理能力の可否、体の状態(飲み込みや、噛み合わせの状態など)を考慮しながら、当然ご本人の使用感に対するこだわりや、夜間装着感の感触なども含めて総合的に判断した結果が、その方に最も適した装着方法となります。

[Q&A]歯磨きと口腔ケアの違い

「歯磨き」とは主に歯に対して歯ブラシを用いて刷掃を行うことを指します。一方で「口腔ケア」とは歯の有無に関係なく、口腔内(歯や歯肉、舌、粘膜などのお口の中の領域全て)や、入れ歯などの人工製作物等も含めた清掃や、機能低下を予防する為の訓練やリハビリテーションを含めた幅広い意味で使われます。

歯ブラシをご自身で出来る場合は、①手を動かすこと、②ご自身の視覚に入らない口腔内の為に見えない空間を意識することで脳が働きます。その為、歯ブラシをすることは運動機能と脳活性化にも効果をもたらすため、ご自身で刷掃出来る状態の方には自力での清掃を促しましょう。ただ、どうしてもご自身での清掃に難があったり、また磨き残しや食渣の残留が見られる場合は介助を行う等の清掃支援が必要です。

 

器質的、機能的口腔ケア

また上記を器質的口腔ケアと機能的口腔ケアに分けて表現する場合もあり、清掃全般を指すものが器質的口腔ケア。機能訓練やリハビリテーションや歯肉や粘膜、唾液腺マッサージなどの機能低下を予防するものを機能的口腔ケアとして分類しています。

口腔ケアと専門的口腔ケア

また介護施設や病院、居宅にて看護職や介護職、ご家族が行う日常的な口腔ケアに対し、歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士等の専門職種が実施する口腔ケアを「専門的口腔ケア」と区別して呼ぶようになってきています。

専門職の行う「専門的口腔ケア」は医療保険や介護保険が適用出来ますが、現状の保険制度上では月に4回の上限が定められている為に、週1回程度の実施に留まります。

歯科衛生士の実施する「専門的口腔ケア」の負担金額とは

しかし介護施設や病院、居宅の場合の訪問看護と訪問介護にて実施される日常的な口腔ケアと組み合わせることで、口腔衛生状態の維持・改善を図り、且つ定期的、継続的な口腔ケア活動はご本人の衛生習慣化の意識向上につながり、健口の保持から全身の健康維持につなげていくことが出来るのです。

入れ歯の使用と認知症

入れ歯を使用していない人の認知症発症リスクが上昇

厚労省研究班が愛知県の健康な65歳以上の高齢者 4425 名を継続的に調査し、データを分析したところ、認知症発症に影響する年齢、治療疾患の有無や生活習慣を考慮したリスク度合いの計算で20 歯以上の人に対して歯がほとんどなく義歯未使用の人の認知症発症リスクは 1.9倍※に上昇したという報告があります。

※平成22年度の厚生労働科学研究 主任研究者:近藤克則氏 日本福祉大学 教授
神奈川歯科大学 社会歯科学講座歯科医療社会学分野 准教授 山本龍生氏 2011/1/7付 プレスリリースより

歯周病(ししゅうびょう)

歯周病の発症要因は複雑であり、多因子積層型疾患と呼ばれています。歯周病を引き起こす細菌群による感染症、免疫力の低下、加齢、唾液の性状変化、噛み合わせの問題など、全身の様々な状態が関連しています。

歯周病の特徴として、歯垢(プラーク)が原因となって発症し、歯を支えている歯槽骨が破壊され、さらに進行すると周囲組織が歯を支えられずに歯が抜け落ちてしまいます。

歯周病は自覚症状がなく、知らず知らずのうちに歯肉炎から進行して、その顎の骨(歯槽骨)を溶かすことを歯周病(歯槽膿漏)と言い、気付いた時には取り返しがつかない状態になっていることがあります。歯周病は、”サイレントキラー”という別名があり、本人にも気づかれずに密かに忍び寄って、そして歯を殺す《暗殺者》のような病気です。

歯の喪失調査では、40代から歯周病による抜歯が急激に増加し、そしてその高い割合は40代以降は低下することなく維持されます。また50代からは歯を失った原因の半数以上が歯周病です。年齢別 歯の喪失グラフはこちら

 

やがて歯が抜ける。歯周病の進行

高齢者の歯周病 健康な状態『健康な状態』
歯と歯ぐきの間の隙間がなく、引き締まっている状態

 

 

高齢者の歯周病 歯肉炎『歯肉炎』
歯茎が腫れて(発赤なども)、出血や口臭などの症状が出ている状態

 

 

高齢者の歯周病 軽度歯周病『軽度歯周病』
歯ぐきが腫れ上がったり、歯磨きや食事中に出血する状態

 

 

高齢者の歯周病 中度歯周病『中度歯周病』
歯ぐきの炎症が慢性化し、歯槽骨(歯の根を支える骨)が溶け始めた状態

 

 

高齢者の歯周病 重度歯周病『重度歯周病』
歯槽骨が溶けて、歯がグラグラしたり、歯根が露出した状態

 

 

高齢者の歯周病 重度歯周病が進行し歯の脱落更に放置して歯に支えがなくなると、歯が抜けます。
もちろんこの時点で治療を始めても、抜歯する以外に治療の方法はありません。

 

歯が抜けた箇所は歯茎の上にダミーの歯を作るか、周りに歯がない場合は入れ歯を作ることで噛み合わせの状態を維持することが出来ます。

 

歯周病の感染率はギネス®級

歯を失う原因は、全体の4割以上を歯周病が占めています。また成人のうち5人に4人が感染しているとも言われており、非常に感染者が多く、且つそれは歯を失うリスクが最も高い病気なのです。世界的に見ても歯周病に感染または発症している人は多く、世界記録を管理するギネスでは過去に「人類史上最も感染者が多い病気」として歯周病が登録されました。