脳卒中や認知症リスク3倍のドリンク!?

今年4月に米国医学誌で公開された論文で、人工甘味料を含んだ飲料水を多く飲むと、飲まない人に比べて脳卒中や認知症のリスクが約3倍に高まったという研究結果が報告されました。

ボストン大学神経科のMatthew P. Pase氏らが行った延べ4372名の追跡調査によるもので、人工甘味料を含んだソフトドリンクの累積摂取量が高いほど虚血性脳卒中で2.96倍、アルツハイマー型認知症で2.89倍と高まることが明らかになりました。なお、砂糖を含むソフトドリンクの場合においては、脳卒中または認知症リスクとの関連性が無いことも報告されています。

昨今のダイエットブームや健康志向を背景として低カロリーが売りの飲料水が多く売られ、夏の時期には1日の水分摂取量も増えるため、人工甘味料入りドリンクをより多く摂取しがちです。

ノンシュガー、シュガーフリー、カロリーオフ、カロリーゼロ、ライトという表記があると大抵の場合人工甘味料が使われています。こまめな水分補給は必要ですが、人工甘味料入りドリンクよりも、ミネラルを含んだ麦茶などの自然素材の飲み物に変えてみてはいかがでしょうか。

全身疾患に影響を与える口腔疾患

今までも何度か取り上げてきた全身疾患との関係性をまとめてみました。口腔疾患そのものが全身へ悪影響を及ぼす以外に、口腔内の状態、日々の清掃状態など普段の生活が影響することもあります。

認知症
歯がなく、入れ歯も使用していない人は、20本以上歯がある人に比べ認知症発症リスクが約1.9倍となる

肺炎
専門的口腔ケアを行っていない人は、実施者と比べ肺炎発症リスクが約1.6倍となる。

脳梗塞
歯周病にかかっている人は、かかっていない人に比べ脳梗塞発症リスクが約2.8倍となる。

糖尿病
歯周病にかかっている人は、かかっていない人に比べ糖尿病発症リスクが約2倍となる。

心血管疾患
歯周病にかかっている人は、かかっていない人に比べ心血管疾患発症リスクが1.15〜1.24倍となる。

低体重児出産
歯周病にかかっている妊婦は、かかっていない人に比べ低体重児出産リスクが約4.3倍となる

上記からもわかるように、歯周病が多くの全身疾患発症リスクを高めます。

厚生労働省が行なった調査では、成人(30〜64歳)の約8割が歯周病に罹っているという結果が報告されており、国民病とも言われています。これは日本に限ったことではなく、世界的にみても罹患者は多く、最も感染者が多い病気としてギネスⓇ登録されているほどです。

 

健康な歯茎は淡い桃色で引きしまっていますが、ブラッシングが正しく出来ていないと、歯肉に炎症が起こったり、赤く腫れたり、歯肉から出血します。これが歯肉炎の症状です。
さらに歯肉炎が改善されないまま歯周組織にまで炎症が進むと、歯と歯肉の境目の溝が深くなって歯周ポケットが形成されます。ポケットが深くなると歯槽骨までもが吸収され、歯周組織が破壊される状態を歯周炎と言います。
歯周病は厄介なお口の病気であり、初期段階では自覚症状がほとんどありません。重症化して歯が動揺するようになって初めて気づくことも多く、歯を失ってしまう最大の原因でもあります。

歯周病の予防には毎日のブラッシングがとても重要です。但し、正しく磨けているかどうかが重要であり、単に歯ブラシをしたからと言って歯周病予防につながっているとは限りません。日々のブラッシングを正しく、そして効果的に行う為にはプロの介入が不可欠です。
一般的に歯がある方は歯や歯根の表面からプラーク(歯垢)と歯石を除去する為に、音波などの振動を利用した機械で清掃します。機械清掃時には水流が出るので水分制限されている方や飲み込み機能の低下が見られる方には誤嚥しないように手持ちの器具を使って除去を行う場合もあります。

 

噛み合わせの状態と健康長寿の関係

「よく噛んで、よく食べる」ことが健康をもたらすと一般的に言われていますが、
その理由としてあがるのは噛むことで脳への血流が増えると脳が活性化され、結果として活動的になったり、よく食べることで高齢者に起こりやすい低栄養の予防になるからです。しかしこの「よく噛む、よく食べる」ことを実現するためには、そもそも上の歯と下の歯が正しく噛み合っていることが重要なのです。今回はこの「噛み合わせ」に注目します。

「噛み合わせの異常がアルツハイマー病の原因であるアミロイドβを海馬に増加させる」ことが、アメリカの医学雑誌にて2011年に掲載されました。発表したのは岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の森田学教授らの研究グループで、噛み合わせの異常モデルを作り出した動物には血液中のストレスホルモンが増加し、このストレスによる刺激で脳の海馬にアミロイドβが増加することが明らかになりました。海馬とは脳内にある器官で、脳の記憶や空間学習能力に深く関係していると言われています。

アミロイドβが海馬に増加するメカニズム
アミロイドβが海馬に増加するメカニズム

また同研究グループでは噛み合わせを回復した逆のケースも調査しており、噛み合わせの問題を取り除くことでアミロイドβの蓄積が減少したことも突き止めています。
認知症を有する高齢者は15年で2倍以上に増加しています。認知症には原因別に幾つかの種類がありますが、最も多いのはアルツハイマー病です。国内の認知症有病率、罹患率のうち、4割~6割をアルツハイマー病が占めていると言われています。

 

認知症を有する高齢者人口の推移
認知症を有する高齢者人口の推移

このように噛み合わせが悪いとアルツハイマー病を発症するリスクが高まります。この他にも重度の歯周病は動脈硬化リスクが高いことが報告されていますが、高齢者を対象にした臼歯咬合崩壊(奥歯の噛み合わせが無い状態)の研究においても、歯周病の状態とは独立して臼歯咬合崩壊と動脈硬化症が関連していることが示されています。
つまり噛み合わせの悪い状態で生活していると、お口の中だけでなく全身へも悪影響を及ぼします。逆に歯医者に通って適切な治療を行い、正しい噛み合わせへと改善出来れば、そうした疾病リスクを予防出来るのです。

 

認知症・転倒リスクと口の働き

「よく噛むことが脳を活性化させる」と言われるように、口腔機能は脳に対して大きな刺激を与えています。下の図はペンフィールドの地図と言い、大脳皮質の各部位が身体のどの器官に直結しているかを表すもので、大脳の体性感覚野と運動野において口腔領域に関与する部分は全体の約4割を占めています。

人間の大脳皮質(ペンフィールドの地図)

脳の神経伝達物質「アセチルコリン」の量は噛むことで増加します。歯がない人で入れ歯も使っていないと、歯が20本以上ある人に比べて認知症発症リスクが約1.9倍に高まったという報告があります。しかし歯がなくても入れ歯を使うことで、その認知症発症リスクを約半分に抑えることが出来るという結果も報告されています。お口の働きと脳には密接な関係があり、会話したり、食べる事で活性化されますが、咀嚼能力が低下すると脳への血流も低下します。噛める状態を維持していくことも、認知症予防の為に大切なことなのです。

自立した生活を維持する為には認知症以外に転倒による骨折等のリスクを防ぐことも大事です。噛み合わせがあると認知症発症リスクが抑えられるとした研究では、転倒回数も調査しています。

認知症高齢者の咬合状態と転倒回数

調査結果では、残存歯数の少なくなった人は目を開けたままの状態での片足立ちを持続する時間が有意に短くなり、65歳以上の健常高齢者で残存歯数が19本以下で義歯を使用していない人は、20本以上の者と比べて2.5倍転倒するリスクが高かった。
また健常高齢者より転倒リスクが2倍も高いとされる認知症高齢者でも、臼歯部の咬合を維持しているグループと、臼歯部に咬合がないグループに分けてみたところ、2回以上転倒した方は臼歯部に咬合がないグループが有意に多かったこともあきらかとなりました。

歯を失う最大の原因は…

歯を失う最大の原因はむし歯ではなく、『歯周病』

財団法人8020推進財団がまとめた「歯を失う原因」で、最も多かったのが歯周病の41.8%です。次に多いものからう蝕(虫歯)が32.4%、破折(強い衝撃などによって歯が折れたり、欠けたりすること)11.4%、矯正歯科治療などの上記以外の原因が14.4%でした。

日本人が歯を失う原因(歯周病、むし歯、破折、歯科矯正他)
最大の原因である歯周病は日本人の国民病とも言われており、成人の約4人に3人が罹患しているとも言われています。この歯周病が歯の寿命に大きな影響を及ぼしていることは明らかですが、実は加齢とともにそのリスクは増大しているのです。

折れ線グラフでは先ほどの調査を10歳毎の年齢階級別に再分類したものです。そのグラフを見ると加齢により、各原因の占める割合が変化しています。

年齢階級別の歯の喪失原因(歯周疾患、齲蝕、歯の破折、矯正歯科治療や全身疾患が原因)
44歳までの歯を失う原因で最も多いのは「う蝕(むし歯)」です。しかし、45歳からの年齢階級を見るとう蝕と歯周病が逆転しています。また歯周病は45歳以上から1位をキープし続けています。また55歳以上の年齢階級に注目すると、歯を失う原因の半数以上が歯周病に因るものだったという結果が明らかになっています。

結果的に歯を失うと以下のようなトラブルにつながる場合があります。
・食べ物が噛み難くなった。
・のどに食べ物を詰まらせることが増えた。
・声が聞き取りにくくなった。

このように日常生活において支障をきたすことも起こります。さらに近年の医学研究によって、歯周病菌肺炎の起炎菌となるばかりではなく、脳梗塞や、脳血管性認知症、狭心症、心筋梗塞、細菌性心内膜炎、糖尿病、バージャー病、関節リウマチ、骨粗鬆症、胎児の早産など、疾患を引き起こしたり、病気の悪化や重症化を招くことが明らかになってきており、全身に対して大きな影響を与えている口腔疾患なのです。

歯肉炎など軽度な状態であればブラッシング励行や、歯周疾患処置、専門的口腔ケア等でも改善していく場合が多いですが、歯周病がより悪化してしまうと外科処置が必要となる場合があります。外科処置となるとご本人の身体的、精神的な負担が発生します。

歯周病は自覚症状を感じにくい口腔疾患であるために、日頃より歯科の専門職による定期的な検査や、早期発見の為にも日頃から連携や介入の体制を整えておく環境作りが重要です。

入れ歯の使用と認知症

入れ歯を使用していない人の認知症発症リスクが上昇

厚労省研究班が愛知県の健康な65歳以上の高齢者 4425 名を継続的に調査し、データを分析したところ、認知症発症に影響する年齢、治療疾患の有無や生活習慣を考慮したリスク度合いの計算で20 歯以上の人に対して歯がほとんどなく義歯未使用の人の認知症発症リスクは 1.9倍※に上昇したという報告があります。

※平成22年度の厚生労働科学研究 主任研究者:近藤克則氏 日本福祉大学 教授
神奈川歯科大学 社会歯科学講座歯科医療社会学分野 准教授 山本龍生氏 2011/1/7付 プレスリリースより

かかりつけ歯科医院の有無と認知症

かかりつけ歯科医院がない人は、認知症発症リスク上昇

厚労省研究班が愛知県の健康な65歳以上の高齢者 4425 名を継続的に調査し、データを分析したところ、認知症発症に影響する年齢、治療疾患の有無や生活習慣を考慮したリスク度合いの計算で、かかりつけ歯科医院のある人に対して、無い人の認知症発症リスクが1.4倍に上昇したという研究報告があります。