不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)

肺炎を引き起こす、不顕性誤嚥

「不顕性誤嚥」とは、漢字からも推測できる通り、~誤って飲み込んでいるのが目に見えない~という意味です。誤嚥性肺炎を頻繁に引き起こす方に多く、またむせたり、嘔吐したりと反射機能が正常に働いていれば、気管に飲食物や胃の内容物が誤って入っても喀出することが出来ますが、認知症の進行や、服用している薬、寝たきり状態が続くと、気管に入っても何の反射も見られずにそのまま肺まで流れてしまうことがあります。

これを不顕性誤嚥と言います。不顕性誤嚥は、経口摂取している、していないの有無に依らず、夜間就寝時でも起こり得る症状です。

具体的には夜間就寝中に、お口の中が不衛生で細菌やウイルスなどの病原微生物を含んだ唾液が本来は食道に流れなければいけないところ、嚥下機能の低下によって気管に流れ込んでしまい、結果として肺炎や夜間の急な発熱を引き起こしたりします。

[Q&A]入れ歯は寝る時に外す?つけたまま?

入れ歯を寝るときにつけていないと不安という方が居れば、違和感を感じるので外して寝たいという方もいます。歯科医師が普段と逆の指導をしたとしても、長年の生活習慣はそう簡単には変えられないものです。

では就寝時の義歯装着は、付ける、付けない、どちらが正しいのでしょうか?

歯茎や粘膜を休ませるためや、小さな部分入れ歯や、適合せずに外れやすい入れ歯など、その時の状態や形状によっては誤飲する可能性があるために外しておく等、装着しないことを勧める場合があります。逆に、噛み合わせに不具合が生じるから出来るだけ装着しておく場合や、顔の形が変化する、夜間の緊急時に持ち出し忘れがない、紛失しない為という理由から装着を勧める場合もあります。

最近では嚥下機能の観点から「噛み合わせがあると飲み込みが良くなる」ことから、常時装着を勧める場合が増えてきています。

結論としては、入れ歯の形状や、ご自身での管理能力の可否、体の状態(飲み込みや、噛み合わせの状態など)を考慮しながら、当然ご本人の使用感に対するこだわりや、夜間装着感の感触なども含めて総合的に判断した結果が、その方に最も適した装着方法となります。

専門家の介入が肺炎予防に

介護施設に入所する要介護高齢者に対して、専門的口腔ケアを実施したグループと、実施しないグループに分けて2年間にわたって調査した結果が下記のグラフです。

グループのいずれも介護職や、看護師による毎食後の口腔ケアを行っています。その他に週1回、歯科医師及び歯科衛生士による専門的口腔ケアを加えて実施したグループと、そうでないグループを、同じ指標で比較したものです。

発熱発生率、肺炎発症率、肺炎死亡率を専門的口腔ケアで大幅減少

専門的口腔ケアを実施したグループは、全ての指標で明らかに減少していることを示しています。その中でも肺炎死亡率は、専門的口腔ケアによって約54%も減少しています。こうした結果から研究者らは普段の口腔ケアに加え、専門家が介入して実施する専門的口腔ケアを併せて実施していくことが肺炎予防につながると結論付けています。

誤嚥性肺炎の起炎菌となっているのは歯周病菌などの口腔内常在菌です。特別なことがなくても負担からお口の中にいる菌ということです。口腔疾患を治療せずに放置していたり、不衛生のままにしておくと細菌叢が増加し、肺炎リスクを高めてしまう結果となります。

高齢者に最適な歯ブラシの選び方

歯ブラシは色や形状のほか、毛束の量、植毛の硬さ、毛の材質の違いによってさまざまな種類が存在します。例えば、歌舞伎役者が出演する歯ブラシのCMでは、毛束の量が多い=贅沢ケア歯ブラシと謳っていたり、歯茎の溝に入りやすい極細毛先を謳ったり、ドラッグストアでは動物の毛を使用した高級な歯ブラシが手の届きやすいところに置いてあります。

では、高齢者にとって使いやすい最適な歯ブラシとはどういうものでしょうか?

まずは歯ブラシの各部位の名称をご説明します。歯ブラシの各部位の名称(植毛、タフト、ネック、ヘッド、ハンドル)

高齢者が使う歯ブラシ選びのポイント

  • 毛の硬さは「ソフト」
    エナメル質の減退によっては傷つき易くなっています。
    毛は出来るだけ柔らかい素材を選びます。
  • ヘッドの大きさは「コンパクト」
    開口が困難だったり、開口が小さい場合にも、ヘッドが小さいとお口の中に入り易くなります。
    ヘッドが大きいとブラッシングしたい箇所への圧力が分散してしまい、清掃能力が落ちます。
  • ハンドルは「ストレート」
    まっすぐな柄は持ち易く、且つ清掃したい箇所へまっすぐに毛先が届きます。またハンドルが太めだとご自身でも握りやすいので、握力が低下した方向けです。

植毛にも種類があります。

歯の数や目的によって適した植毛パターンは異なります。

  • 溝や歯間の清掃など細かい箇所の清掃に適しているのは  ⇒ 1~2列
  • 食べかすや、歯垢除去に重点を置く場合に適しているのは ⇒ 3列
  • 歯肉マッサージに重点を置く場合に適しているのは    ⇒ 多数列

歯がなくても、歯の根っこが残っている箇所にもブラッシングは必要です。また歯肉マッサージは歯ぐきの血行を良くする効果もあります。

※個別の状態や症状などを考慮しておりませんので、歯ブラシ選びの参考にして下さい。
※お口の中の状態は人により異なりますので、かかりつけの歯科医師や歯科衛生士に相談してみましょう。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

ご存じですか?誤嚥性肺炎

国の統計によると「肺炎」は、悪性新生物(がん)、心疾患に次ぐ第3位の死因です。これは脳梗塞(のうこうそく)や、脳卒中(のうそっちゅう)などの脳血管疾患を上回っています。

「誤嚥性肺炎」死因別死亡数の割合 平成26年度 人口動態調査

肺炎は、ウイルスや細菌などの病原微生物が肺に感染し、炎症を引き起こして発熱などを起こす病気です。病原微生物は鼻や口から空気とともに気管に侵入しますが、健康な場合は抵抗力があるために体内の防御反応によって排除され、肺まで到達せずに発症せずに済む場合もあります。しかし病気や加齢、粘膜の乾燥によっては免疫力や、抵抗力が低下して、防御機能が正常に働かずに、結果として肺炎に罹ってしまいます。

この肺炎は、原因となる細菌やウイルスや、他の全身疾患が原因となるものなど多くの種類があります。その中で高齢者にとって割合の多い肺炎の中に「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」があります。誤嚥性肺炎とは、嚥下機能の低下などによって食物や胃の内容物が誤って気管に入り、肺に到達することで炎症が引き起こされる肺炎の種類です。

70歳以上の高齢者が一般の生活の中で発症した肺炎のうち、80.1%が誤嚥性肺炎であるという調査結果もあり、高齢者にとってはより身近で、注意しなければいけない病気です。高齢になると肺炎発症による身体的、精神的負担は非常に大きくなり、入院となるとご本人だけでなくご家族にも負担が増え、経済的な負担も増えます。

誤嚥性肺炎の予防方法とは