[Q&A]舌(べろ)を掃除する頻度は?

唾液分泌量が減ると舌上に汚れが溜まりやすくなります。白色や茶褐色のコケ状の汚れは舌苔(ぜったい)と呼ばれ、口臭の原因だけでなく、それらの中で細菌やウイルスが増殖すると全身に悪影響を与えます。そのために常日頃から舌も綺麗にしておく必要があるのです。ご自身で舌の掃除が出来る場合は、就寝前の歯ブラシの時に鏡を見ながら舌専用のブラシ、または歯ブラシで味蕾と呼ばれる味を感じるセンサーを傷つけないようにかき出すように掃除します。口腔清掃の介助が必要な方に対しては、週1回程度を目安とし以下の点に気を付けながら清掃を行います。
・力を入れず、奥から手前にかき出すようにブラシを動かす。
・舌の奥は嘔吐反射が出やすいので、舌の中ほどより奥には入れない。
・指示が入らない、拒絶、防御反射があれば中止する。

口腔清掃は継続して行う必要があります。その後の拒絶にもつながってしまうため、決して無理に行わないでください。また出来れば歯ブラシを代用せず、短時間で効率的に実施出来る舌専用ブラシを使いましょう。

大病のサイン?ドライマウスの症状と原因

空気が乾燥するこの季節、お口の渇きを感じることも多いと思います。口が乾燥すると風邪を引くと言われますが、これには粘膜の乾燥が大きく関係しています。のどの粘膜の表面には、ウイルスや細菌などの異物を外に出す働きをする線毛があります。乾燥気味になると線毛の動きが悪くなるため、ウイルスや細菌が侵入しやすくなります。侵入したウイルスや細菌が粘膜で炎症を起こし、結果として風邪やインフルエンザを発症してしまいます。
ドライマウスは長期間にわたり、口の中が乾燥している状態です。発症の原因はさまざまですが、全身疾患の症状として現れる場合もあります。

ドライマウスは「口腔乾燥症」とも言い、唾液の分泌量が減るなどして口の中が乾燥する状態を指します。乾燥以外にも口臭を強く感じたり、舌に痛みを感じたり、口の中がネバつく、薄い味がわからない、パサパサした食品が食べづらいなどの症状を伴うこともあり、正確な疫学調査はないものの800〜3000万人程度の潜在患者がいると推定されています。口腔乾燥症の評価や検査方法には安静時唾液検査やガムテスト等がありますが、簡単に出来るものが以下の客観的口腔乾燥の4段階評価です。

口腔乾燥の臨床診断基準

 

ドライマウスの潜在患者は中高年の女性に多いとされ、最近では若い人でも増えているそうです。食生活の変化や、生活リズムの乱れ、精神的な緊張やストレスの多い日常生活が関係しているようです。

高齢者が発症するドライマウスの主な原因

加齢にともなって口を動かす機会が減ったり、口腔周囲筋が衰えると唾液の分泌量が減少します。唾液分泌量の低下は咀嚼効率を低下させ、「よく噛み、よく食べる」ことに支障をきたします。また特に高齢者の場合、食生活が原因となることがあります。固いものよりも柔らかいものを多く食べることが、顎や舌の筋肉の衰えを早めます。糖尿病や脳出血、脳梗塞による麻痺、シェーグレン症候群等の疾患によって症状が現れたり、鎮痛薬、抗うつ薬、向精神薬、降圧薬、利尿薬等の副作用が原因となる場合もあります。

口の渇きを長く感じている方は糖尿病や脳卒中などの疾患が隠れている場合もあるので、早めに通院されることをおすすめします。ドライマウスの予防にはこまめな水分補給や、噛み応えのある食事を摂る、アルコールを適量にするなどありますが。特に高齢者の場合は唾液腺マッサージで分泌を促したり、口腔ケアの実施で口腔周囲筋へ刺激を与えることも効果的です。入れ歯が合っていないとしっかり噛めず、十分に唾液が分泌されないこともあります。正しい噛み合わせを維持するためにも、定期的に検診を受けましょう。

歯の平均寿命も過去最高

平均寿命が年々上昇していますが、残っている歯の割合も増え続けています。平成29年6月に厚生労働省が発表した歯科疾患実態調査結果の概要によると、80歳になっても自分の歯が20本以上ある人の割合が、前回調査の40.2%から51.2%に増加して調査毎に過去の数値を更新し続けているとのことです。

20本以上の歯を有する者の割合の年次推移
20本以上の歯を有する者の割合の年次推移

 

年齢層別グラフの中で80~84歳を見ても平成5年の11.7%から平成28年には44.2%へと23年間で約4倍、85歳以上では9倍以上も上昇しています。
複合的な要素があると思いますが、この間歯科医院の数が劇的に増えたこともなく、また日本における成人歯科健診の実施率および受診率が低い事を考えると、一人一人の予防意識の高まりや歯科治療技術の進歩によって、歯の寿命も延びていると考えられます。

 

歯の寿命が延びることで一番その価値を感じられるのが、

美味しく食べられる。

ことです。経験者である高齢者に聞くと、歯があるうちは美味しく食べられて当然と思っているのでなかなか気付かないが、失ってみると歯のある有難さに気付くのだそうです。また何度か触れてきた話題ではありますが、歯があると発声がしやすい、窒息リスクを減らせる、奥歯があると転倒しにくくなったり全身疾患に罹りにくいなど、生活上でさまざまな恩恵を受けているのです。
下の表は、故・加藤順吉郎医師が平成7年に愛知県内の施設で実施したアンケートを集計したものです。

要介護高齢者の日常生活における関心事(施設でたのしいこと)
要介護高齢者の日常生活における関心事(施設でたのしいこと)

 

施設等で介護を受ける高齢者にとって一番楽しいことは「食事」です。しかし楽しく食事をとり続けるためには、口腔内を衛生的に保っておかなければ美味しさを感じられません。美味しさを感じられないということは、一番の楽しみを奪うことになります。だからこそ、日々の清掃活動というのは非常に大きな意味を持つのです。
一度失った歯は戻ってきません。その時になってはじめて事の重大さに気がつくのでは遅いのです。歯科疾患の早期発見の為にも、かかりつけの歯科医院を持って、定期的に検診やクリーニング、メインテナンスを受けましょう。

[Q&A]新しい入れ歯を無くしてしまったら

介護施設のスタッフから「新しく作った入れ歯を無くしてしまったようで、もう一度作り直せますか?」と聞かれることがあります。認知症が進むと入れ歯を口の中の異物として認識するためか、外して洋服の中に隠したり、更にはゴミ箱に捨てたという話も聞きます。たまたま誰も気付かずに廃棄してしまうと、新しく作り直すしかありません。

ご家族も同意の上で歯医者に作り直しを依頼しても、実際には保険が適用出来ないケースが存在します。それは前回の入れ歯の製作開始時の歯型取りの日から6ヶ月以内の製作については保険診療が適用出来ないという保険制度上のルールがあるからです。なお、違う部位であれば製作は可能です。

特に自己管理が難しい方については、新しい入れ歯を使い始めてから慣れるまでの間、保管場所や着脱のタイミングを本人に代わって管理する方が必要です。

脳卒中や認知症リスク3倍のドリンク!?

今年4月に米国医学誌で公開された論文で、人工甘味料を含んだ飲料水を多く飲むと、飲まない人に比べて脳卒中や認知症のリスクが約3倍に高まったという研究結果が報告されました。

ボストン大学神経科のMatthew P. Pase氏らが行った延べ4372名の追跡調査によるもので、人工甘味料を含んだソフトドリンクの累積摂取量が高いほど虚血性脳卒中で2.96倍、アルツハイマー型認知症で2.89倍と高まることが明らかになりました。なお、砂糖を含むソフトドリンクの場合においては、脳卒中または認知症リスクとの関連性が無いことも報告されています。

昨今のダイエットブームや健康志向を背景として低カロリーが売りの飲料水が多く売られ、夏の時期には1日の水分摂取量も増えるため、人工甘味料入りドリンクをより多く摂取しがちです。

ノンシュガー、シュガーフリー、カロリーオフ、カロリーゼロ、ライトという表記があると大抵の場合人工甘味料が使われています。こまめな水分補給は必要ですが、人工甘味料入りドリンクよりも、ミネラルを含んだ麦茶などの自然素材の飲み物に変えてみてはいかがでしょうか。

歯の再生医療

以前から歯の再生医療に関する発表はありましたが、今年の3月にビーグル犬の幹細胞から作った歯のもとである「歯胚(しはい)」を使って構造・機能的に完全な歯を再生させることに成功したと、岡山大学と理化学研究所の研究グループが発表しました。
これまでは歯の喪失に対し、入れ歯やブリッジ、人工歯根を用いて機能を代替してきました。しかし咀嚼や嚥下の根本的な機能回復の必要性から生物学的な歯の再生への期待を背景にして、研究が進められてきたそうです。

同様の研究はマウスでの成功例が発表されていましたが、大型動物の成果は初めてとのことです。これによって研究はさらに進展していくと言われているそうですが、実際には若齢期の歯胚細胞を利用した研究であって歯を失った成人・高齢者へ適応される技術となるまでには越えなければいけない課題は多いようです。効果的な治療法として早期に確立して欲しいと思いますが、人体での実用化はまだまだ先の話です。

全身疾患に影響を与える口腔疾患

今までも何度か取り上げてきた全身疾患との関係性をまとめてみました。口腔疾患そのものが全身へ悪影響を及ぼす以外に、口腔内の状態、日々の清掃状態など普段の生活が影響することもあります。

認知症
歯がなく、入れ歯も使用していない人は、20本以上歯がある人に比べ認知症発症リスクが約1.9倍となる

肺炎
専門的口腔ケアを行っていない人は、実施者と比べ肺炎発症リスクが約1.6倍となる。

脳梗塞
歯周病にかかっている人は、かかっていない人に比べ脳梗塞発症リスクが約2.8倍となる。

糖尿病
歯周病にかかっている人は、かかっていない人に比べ糖尿病発症リスクが約2倍となる。

心血管疾患
歯周病にかかっている人は、かかっていない人に比べ心血管疾患発症リスクが1.15〜1.24倍となる。

低体重児出産
歯周病にかかっている妊婦は、かかっていない人に比べ低体重児出産リスクが約4.3倍となる

上記からもわかるように、歯周病が多くの全身疾患発症リスクを高めます。

厚生労働省が行なった調査では、成人(30〜64歳)の約8割が歯周病に罹っているという結果が報告されており、国民病とも言われています。これは日本に限ったことではなく、世界的にみても罹患者は多く、最も感染者が多い病気としてギネスⓇ登録されているほどです。

 

健康な歯茎は淡い桃色で引きしまっていますが、ブラッシングが正しく出来ていないと、歯肉に炎症が起こったり、赤く腫れたり、歯肉から出血します。これが歯肉炎の症状です。
さらに歯肉炎が改善されないまま歯周組織にまで炎症が進むと、歯と歯肉の境目の溝が深くなって歯周ポケットが形成されます。ポケットが深くなると歯槽骨までもが吸収され、歯周組織が破壊される状態を歯周炎と言います。
歯周病は厄介なお口の病気であり、初期段階では自覚症状がほとんどありません。重症化して歯が動揺するようになって初めて気づくことも多く、歯を失ってしまう最大の原因でもあります。

歯周病の予防には毎日のブラッシングがとても重要です。但し、正しく磨けているかどうかが重要であり、単に歯ブラシをしたからと言って歯周病予防につながっているとは限りません。日々のブラッシングを正しく、そして効果的に行う為にはプロの介入が不可欠です。
一般的に歯がある方は歯や歯根の表面からプラーク(歯垢)と歯石を除去する為に、音波などの振動を利用した機械で清掃します。機械清掃時には水流が出るので水分制限されている方や飲み込み機能の低下が見られる方には誤嚥しないように手持ちの器具を使って除去を行う場合もあります。

 

[Q&A]使用休止中の入れ歯の保管方法は?

高齢になると様々な病気に罹ってしまうことがあり、療養中には入れ歯を使用を休止することがあります。風邪やインフルエンザの場合は1週間程度、点滴など経口摂取出来ない状態が続く場合はさらに長くなります。長い期間入れ歯の使用を休止する場合、どのように保管するのが良いのでしょうか?

1,2週間程度であれば保管ケースに水を張り、1日置きに水を交換しましょう。水は頻繁に交換して下さい。しかし長期間となると水の交換作業が負担となったり、忘れてしまうこともあります。季節によっては綺麗な水を張っていても直ぐに細菌やカビが繁殖してしまいます。カビが生えてしまうと入れ歯の細かい溝にまで根を張ってしまい、洗浄しても落ちません。長期間となる場合は十分に入れ歯を乾燥させて、外気に触れないよう密封パックなどに入れて保管して下さい。

体調が回復しても生体の変化、あるいは入れ歯の変形によって適合しない場合があります。入れ歯の使用を再開する前には、必ず歯科医師による状態の確認や調整を行った上で使用するようにしましょう。

身体機能の低下につながるオーラル・フレイル

サルコペニアは、高齢者における加齢性筋肉減弱現象を意味する医療用語です。加齢や病気に罹ることで筋肉量が低下し、全身の筋力低下または身体能力の低下が起こることを指します。具体的には歩くスピードが遅くなったり、物を掴む手の握力が落ちたり、重いものを持ち上げられないなど、日常生活の動作(ADL)が制限されることで、寝たきりや転倒骨折などを起こすリスクが高まる状態です。最近では口腔以外の筋力低下に関する検査項目が、後期高齢者向け歯科検診に追加されている地域もあります。

この検査項目の一つに東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢氏らが考案した「指輪っかテスト」があります。専用の検査器具など要らず、ご自分の身体を使って高齢者自身が早期に気付くことが出来る簡便な自己判定方法です。
以下の方法を参考にして、是非ご自身でお試し下さい。

指輪っかテスト
指輪っかテスト

 

サルコペニアとは別に体重の減少や歩行スピードの低下、筋力(握力)の低下、疲労感、身体の活動性の低下など広範な要素を含んだ虚弱状態をフレイルと呼び、介護支援を必要とする高齢者を早期に発見して生活機能の維持・向上を図る為にも、共通の目安作りが進められています。

歯科の分野においても口腔機能の虚弱を「オーラル・フレイル」と呼ぶようになってきています。加齢に伴う身体機能低下(サルコペニアやフレイル)の過程において、口や歯の管理を疎かにすることで噛む力が低下し正しく栄養が摂取出来ない状態となったり、舌の動きなどの口腔機能の低下から発語に支障をきたすことで人との交流を避け閉じこもりになるなど、オーラルフレイルとの関連が強いことがわかっています。

お口のトラブルをきっかけとした生活機能低下の悪循環モデル
お口のトラブルをきっかけとした生活機能低下の悪循環モデル

 

重要なのは噛む力を維持していくためにも歯を失わないことです。その為には日頃から正しい口腔清掃を心掛けることと、もし歯周病やむし歯などで歯を失ったとしても適切な処置を受けることで噛み合わせは維持出来ます。定期的に歯や口の健康状態をかかりつけの歯科医師に診てもらいましょう。

 

正しいマスク着用方法について

この時期、介護施設や医療施設にとって気を抜けないのが集団感染の対策です。特にインフルエンザやノロウイルスは感染力が強く、日頃からドアノブや手すりの除菌清掃、手洗いとうがいの励行、室温と湿度の維持、職員の体調管理に心がけて利用者の生活を支えています。しかし施設にとって回避しにくい問題もあります。それは面会者からの感染です。もちろんマスク着用や手指の消毒、持ち込み制限に関する注意は順守されていると思いますが、正しい方法でなければ効果がない場合もあります。今回は正しいマスクの着用方法について説明します。

まずはマスクの適正なサイズ選び。鼻と口だけでなく顎までかかる大きさのものを選びます。マスクの縁と肌に隙間が無いようしっかりと密着させます。特に鼻には凹凸があり、ご自身の形状に合わせ折り曲げる必要があります。最後に重要なのが密封状態の確認です。鼻と口でそれぞれ息を吸ったり吐いたりを繰り返します。同時にマスクが膨張収縮を繰り返せば、正しく着用されています。外側には飛散物が付着します。1日1枚を目安にして、繰り返しの使用は避けましょう。