[Q&A]歯磨きと口腔ケアの違い

「歯磨き」とは主に歯に対して歯ブラシを用いて刷掃を行うことを指します。一方で「口腔ケア」とは歯の有無に関係なく、口腔内(歯や歯肉、舌、粘膜などのお口の中の領域全て)や、入れ歯などの人工製作物等も含めた清掃や、機能低下を予防する為の訓練やリハビリテーションを含めた幅広い意味で使われます。

歯ブラシをご自身で出来る場合は、①手を動かすこと、②ご自身の視覚に入らない口腔内の為に見えない空間を意識することで脳が働きます。その為、歯ブラシをすることは運動機能と脳活性化にも効果をもたらすため、ご自身で刷掃出来る状態の方には自力での清掃を促しましょう。ただ、どうしてもご自身での清掃に難があったり、また磨き残しや食渣の残留が見られる場合は介助を行う等の清掃支援が必要です。

 

器質的、機能的口腔ケア

また上記を器質的口腔ケアと機能的口腔ケアに分けて表現する場合もあり、清掃全般を指すものが器質的口腔ケア。機能訓練やリハビリテーションや歯肉や粘膜、唾液腺マッサージなどの機能低下を予防するものを機能的口腔ケアとして分類しています。

口腔ケアと専門的口腔ケア

また介護施設や病院、居宅にて看護職や介護職、ご家族が行う日常的な口腔ケアに対し、歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士等の専門職種が実施する口腔ケアを「専門的口腔ケア」と区別して呼ぶようになってきています。

専門職の行う「専門的口腔ケア」は医療保険や介護保険が適用出来ますが、現状の保険制度上では月に4回の上限が定められている為に、週1回程度の実施に留まります。

歯科衛生士の実施する「専門的口腔ケア」の負担金額とは

しかし介護施設や病院、居宅の場合の訪問看護と訪問介護にて実施される日常的な口腔ケアと組み合わせることで、口腔衛生状態の維持・改善を図り、且つ定期的、継続的な口腔ケア活動はご本人の衛生習慣化の意識向上につながり、健口の保持から全身の健康維持につなげていくことが出来るのです。

歯を失う最大の原因は…

歯を失う最大の原因はむし歯ではなく、『歯周病』

財団法人8020推進財団がまとめた「歯を失う原因」で、最も多かったのが歯周病の41.8%です。次に多いものからう蝕(虫歯)が32.4%、破折(強い衝撃などによって歯が折れたり、欠けたりすること)11.4%、矯正歯科治療などの上記以外の原因が14.4%でした。

日本人が歯を失う原因(歯周病、むし歯、破折、歯科矯正他)
最大の原因である歯周病は日本人の国民病とも言われており、成人の約4人に3人が罹患しているとも言われています。この歯周病が歯の寿命に大きな影響を及ぼしていることは明らかですが、実は加齢とともにそのリスクは増大しているのです。

折れ線グラフでは先ほどの調査を10歳毎の年齢階級別に再分類したものです。そのグラフを見ると加齢により、各原因の占める割合が変化しています。

年齢階級別の歯の喪失原因(歯周疾患、齲蝕、歯の破折、矯正歯科治療や全身疾患が原因)
44歳までの歯を失う原因で最も多いのは「う蝕(むし歯)」です。しかし、45歳からの年齢階級を見るとう蝕と歯周病が逆転しています。また歯周病は45歳以上から1位をキープし続けています。また55歳以上の年齢階級に注目すると、歯を失う原因の半数以上が歯周病に因るものだったという結果が明らかになっています。

結果的に歯を失うと以下のようなトラブルにつながる場合があります。
・食べ物が噛み難くなった。
・のどに食べ物を詰まらせることが増えた。
・声が聞き取りにくくなった。

このように日常生活において支障をきたすことも起こります。さらに近年の医学研究によって、歯周病菌肺炎の起炎菌となるばかりではなく、脳梗塞や、脳血管性認知症、狭心症、心筋梗塞、細菌性心内膜炎、糖尿病、バージャー病、関節リウマチ、骨粗鬆症、胎児の早産など、疾患を引き起こしたり、病気の悪化や重症化を招くことが明らかになってきており、全身に対して大きな影響を与えている口腔疾患なのです。

歯肉炎など軽度な状態であればブラッシング励行や、歯周疾患処置、専門的口腔ケア等でも改善していく場合が多いですが、歯周病がより悪化してしまうと外科処置が必要となる場合があります。外科処置となるとご本人の身体的、精神的な負担が発生します。

歯周病は自覚症状を感じにくい口腔疾患であるために、日頃より歯科の専門職による定期的な検査や、早期発見の為にも日頃から連携や介入の体制を整えておく環境作りが重要です。