どうして歯は黄ばむのか?

歯は硬いエナメル質で覆われています。その内側にはエナメル質に比べて硬度が低い象牙質があります。歯の色と言えば表面のエナメル質が白いと思われがちですが、そうではありません。エナメル質は半透明色のため、内側の象牙質の色が透けているのです。

歯はどうして黄ばむのか?訪問歯科、専門的口腔ケアのオーラルアップ

歯の黄ばみは加齢と食事による着色が主な原因です。加齢で歯の神経が小さくなったり、喫煙、お茶や珈琲による着色汚れもあります。汚れの付着は内側の象牙質ではなく、食べ
物や飲み物の色素が歯の表面にある「べクリル」というタンパク質の薄い膜と反応して色素沈着を引き起こしています。

白い歯は年齢を若く見せるという審美的効果があります。しかし歯の白さは健康のバロメーターではありません。白さを保つことよりも、毎食後や就寝前に歯周汚れを刷掃する等して口腔内の衛生状態を保つことが健康維持には大切なのです。

[Q&A]食後すぐの歯磨きは良いの?悪いの?

数年前からテレビ番組やインターネット上では~食後すぐの歯ブラシは歯を削ってしまうので良くない~という報道や、記事が増えています。詳しく調べてみると、アメリカの歯科医師が食事中に炭酸や酸性ソフトドリンクを飲んで食後20分以内に歯ブラシするとエナメル質や象牙質に酸が届き易く、飲まない時に比べて歯を早く溶かしてしまうというインタビュー記事がきっかけとなっているようです。

しかし日本において、また特に高齢者がご自身で作る食事や介護施設で提供される食事で、こうした炭酸や酸性ソフトドリンクを飲みながら食事するという習慣はあまりないように思います。

そもそもお口の中は食後すぐに酸性となります。その後は唾液の緩衝作用により1時間程かけて徐々に中和され、カルシウム等が供給されることで再石灰化が行われます。一方で食事によって栄養素が取り込まれた温かく湿ったお口の中は、ウイルスや細菌の増殖に最適な環境です。

歯の摩耗を心配するよりも抵抗力や唾液分泌量が低下しやすい高齢者にとっては、出来るだけ早く口内清掃を行ってもらうことの方が大事です。

からだを守る唾液の働き

唾液を使ったことわざには「天に唾する」「眉に唾をつける」「唾で矢を剥ぐ」等があります。決して良いイメージではないですが、本来の唾液は良い働きを幾つも持ち、高齢者にとっては窒息事故を予防する存在でもあります。

まず唾液の成分ですが、99.5%が水分です。その他の0.5%にカルシウムや、リン酸、タンパク質等が含まれています。ラクトフェリンを摂取し続けると風邪を引きにくくなったという宣伝を見たことはありますか?ラクトフェリンは実は皆さんの唾液にも含まれている糖タンパク質です。唾液だけでなく母乳等にも含まれ、殺菌・抗菌の働きをします。その他にも歯の再石灰化や消化作用を持っていることは広く知られていますが、高齢者に多い口の渇きに唾液の潤滑作用や湿潤作用が働くことで、お口を乾燥から予防するだけでなく、食べ物による窒息事故からも守ってくれているのです。

成人の1日の唾液分泌量は約1.5ℓと言われています。しかし高齢者になると0.5ℓ程度との報告もあり、全身疾患や薬、口腔機能の低下によって唾液分泌量は減少していきます。唾液が減少すると、噛めない、飲み込めない、味を感じにくい、発声がしづらいと感じます。結果として美味しくない、噛みにくい為に食事量が減ったり、人との会話が減ることで生活の質が低下するだけでなく身体にも悪影響を与えます。周囲からは口臭が強い、食事の時間が長い、話しが聞き取れないと感じたり、何度調整しても入れ歯が合わないことも。

唾液は、食べる時によく噛んだり、話したり、清掃を行うことで分泌量が増えます。寝たきりや非経口栄養摂取の方も口腔ケアを行うことによって唾液の分泌が促され、ドライマウスや肺炎の予防につながります。

唾液の持つ多くの作用とは

  • 殺菌・抗菌作用
    タンパク質の抗菌物質が、細菌の細胞壁を溶かしたり、生育にかかせない鉄分を奪う等の殺菌、抗菌効果を発揮します。
  • 歯の修復・再生作用
    歯の表面に薄い膜を張り、酸により歯が溶け出すことから保護し、カルシウムやリン酸が歯を修復します。
  • 消化作用
    アミラーゼ(酵素)がでんぷんを糖に分解し、消化を促す。
  • 緩衝作用
    酸は歯を溶かします。食事により口内のpHが酸性になりますが、唾液が中和してくれることで細菌の繁殖を抑えます。
  • 洗浄作用
    食事中だけでなく常に唾液を分泌し、口腔内の汚れを洗い流す。
  • 潤滑作用
    食物を飲み込み易く、また滑らかに発声出来る様に潤す。
  • 溶解作用
    食物の味を感じ易くする為に、味覚物質を溶かす。
  • 湿潤作用
    適度な粘性を持つムチンによって、粘膜を乾燥から防ぐ。

インフルエンザ予防となる専門的口腔ケア

乾燥するこの季節には感染症が蔓延し易くなります。日本においては例年12月~3月がインフルエンザの流行する期間です。感染しないための手洗いやうがいは細菌やウイルスが口に入り込まないようにする為の予防策であって、口腔内を衛生的に保つことも感染予防の有効な手段です。感染経路には以下の3つがあります。

  • 飛沫感染
    他人の咳、くしゃみ、会話等で飛び散った飛沫粒子によって感染する場合
  • 接触感染
    感染者の咳、くしゃみ、鼻水などがついた手でコップやドアノブ、スイッチ、手すり等に触れ、その後同じ箇所に触れることで間接的に感染する場合
  • 空気感染
    感染者の咳、くしゃみ等で飛沫したごく細かい粒子が空中に浮遊し、それらを吸入することによって感染する場合実はインフルエンザウイルスが乾燥を好む訳ではありません。のどの粘膜が乾燥に弱いに、ウイルスの侵入や増殖を防げないことが原因で発症します。

過去の気道感染予防の研究では、口腔内細菌を減少させることを目的とした歯科衛生士の行う専門的口腔ケアにより、唾液中の菌の数や日和見感染症起因微生物を減少させ、実施しないグループに比べて肺炎及びインフルエンザの発症を抑えることがわかっています。

※専門的口腔ケア・・・ご自身で行う清掃や、看護師、介護職員等が行う日常的な口腔ケアではなく、歯科医師や歯科衛生士等の専門職が行う口腔ケアを指します。

不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)

肺炎を引き起こす、不顕性誤嚥

「不顕性誤嚥」とは、漢字からも推測できる通り、~誤って飲み込んでいるのが目に見えない~という意味です。誤嚥性肺炎を頻繁に引き起こす方に多く、またむせたり、嘔吐したりと反射機能が正常に働いていれば、気管に飲食物や胃の内容物が誤って入っても喀出することが出来ますが、認知症の進行や、服用している薬、寝たきり状態が続くと、気管に入っても何の反射も見られずにそのまま肺まで流れてしまうことがあります。

これを不顕性誤嚥と言います。不顕性誤嚥は、経口摂取している、していないの有無に依らず、夜間就寝時でも起こり得る症状です。

具体的には夜間就寝中に、お口の中が不衛生で細菌やウイルスなどの病原微生物を含んだ唾液が本来は食道に流れなければいけないところ、嚥下機能の低下によって気管に流れ込んでしまい、結果として肺炎や夜間の急な発熱を引き起こしたりします。

専門家の介入が肺炎予防に

介護施設に入所する要介護高齢者に対して、専門的口腔ケアを実施したグループと、実施しないグループに分けて2年間にわたって調査した結果が下記のグラフです。

グループのいずれも介護職や、看護師による毎食後の口腔ケアを行っています。その他に週1回、歯科医師及び歯科衛生士による専門的口腔ケアを加えて実施したグループと、そうでないグループを、同じ指標で比較したものです。

発熱発生率、肺炎発症率、肺炎死亡率を専門的口腔ケアで大幅減少

専門的口腔ケアを実施したグループは、全ての指標で明らかに減少していることを示しています。その中でも肺炎死亡率は、専門的口腔ケアによって約54%も減少しています。こうした結果から研究者らは普段の口腔ケアに加え、専門家が介入して実施する専門的口腔ケアを併せて実施していくことが肺炎予防につながると結論付けています。

誤嚥性肺炎の起炎菌となっているのは歯周病菌などの口腔内常在菌です。特別なことがなくても負担からお口の中にいる菌ということです。口腔疾患を治療せずに放置していたり、不衛生のままにしておくと細菌叢が増加し、肺炎リスクを高めてしまう結果となります。

[Q&A]歯磨きと口腔ケアの違い

「歯磨き」とは主に歯に対して歯ブラシを用いて刷掃を行うことを指します。一方で「口腔ケア」とは歯の有無に関係なく、口腔内(歯や歯肉、舌、粘膜などのお口の中の領域全て)や、入れ歯などの人工製作物等も含めた清掃や、機能低下を予防する為の訓練やリハビリテーションを含めた幅広い意味で使われます。

歯ブラシをご自身で出来る場合は、①手を動かすこと、②ご自身の視覚に入らない口腔内の為に見えない空間を意識することで脳が働きます。その為、歯ブラシをすることは運動機能と脳活性化にも効果をもたらすため、ご自身で刷掃出来る状態の方には自力での清掃を促しましょう。ただ、どうしてもご自身での清掃に難があったり、また磨き残しや食渣の残留が見られる場合は介助を行う等の清掃支援が必要です。

 

器質的、機能的口腔ケア

また上記を器質的口腔ケアと機能的口腔ケアに分けて表現する場合もあり、清掃全般を指すものが器質的口腔ケア。機能訓練やリハビリテーションや歯肉や粘膜、唾液腺マッサージなどの機能低下を予防するものを機能的口腔ケアとして分類しています。

口腔ケアと専門的口腔ケア

また介護施設や病院、居宅にて看護職や介護職、ご家族が行う日常的な口腔ケアに対し、歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士等の専門職種が実施する口腔ケアを「専門的口腔ケア」と区別して呼ぶようになってきています。

専門職の行う「専門的口腔ケア」は医療保険や介護保険が適用出来ますが、現状の保険制度上では月に4回の上限が定められている為に、週1回程度の実施に留まります。

歯科衛生士の実施する「専門的口腔ケア」の負担金額とは

しかし介護施設や病院、居宅の場合の訪問看護と訪問介護にて実施される日常的な口腔ケアと組み合わせることで、口腔衛生状態の維持・改善を図り、且つ定期的、継続的な口腔ケア活動はご本人の衛生習慣化の意識向上につながり、健口の保持から全身の健康維持につなげていくことが出来るのです。

歯を失う最大の原因は…

歯を失う最大の原因はむし歯ではなく、『歯周病』

財団法人8020推進財団がまとめた「歯を失う原因」で、最も多かったのが歯周病の41.8%です。次に多いものからう蝕(虫歯)が32.4%、破折(強い衝撃などによって歯が折れたり、欠けたりすること)11.4%、矯正歯科治療などの上記以外の原因が14.4%でした。

日本人が歯を失う原因(歯周病、むし歯、破折、歯科矯正他)
最大の原因である歯周病は日本人の国民病とも言われており、成人の約4人に3人が罹患しているとも言われています。この歯周病が歯の寿命に大きな影響を及ぼしていることは明らかですが、実は加齢とともにそのリスクは増大しているのです。

折れ線グラフでは先ほどの調査を10歳毎の年齢階級別に再分類したものです。そのグラフを見ると加齢により、各原因の占める割合が変化しています。

年齢階級別の歯の喪失原因(歯周疾患、齲蝕、歯の破折、矯正歯科治療や全身疾患が原因)
44歳までの歯を失う原因で最も多いのは「う蝕(むし歯)」です。しかし、45歳からの年齢階級を見るとう蝕と歯周病が逆転しています。また歯周病は45歳以上から1位をキープし続けています。また55歳以上の年齢階級に注目すると、歯を失う原因の半数以上が歯周病に因るものだったという結果が明らかになっています。

結果的に歯を失うと以下のようなトラブルにつながる場合があります。
・食べ物が噛み難くなった。
・のどに食べ物を詰まらせることが増えた。
・声が聞き取りにくくなった。

このように日常生活において支障をきたすことも起こります。さらに近年の医学研究によって、歯周病菌肺炎の起炎菌となるばかりではなく、脳梗塞や、脳血管性認知症、狭心症、心筋梗塞、細菌性心内膜炎、糖尿病、バージャー病、関節リウマチ、骨粗鬆症、胎児の早産など、疾患を引き起こしたり、病気の悪化や重症化を招くことが明らかになってきており、全身に対して大きな影響を与えている口腔疾患なのです。

歯肉炎など軽度な状態であればブラッシング励行や、歯周疾患処置、専門的口腔ケア等でも改善していく場合が多いですが、歯周病がより悪化してしまうと外科処置が必要となる場合があります。外科処置となるとご本人の身体的、精神的な負担が発生します。

歯周病は自覚症状を感じにくい口腔疾患であるために、日頃より歯科の専門職による定期的な検査や、早期発見の為にも日頃から連携や介入の体制を整えておく環境作りが重要です。