平成28年度診療報酬改定

本日より平成28年度となり、診療報酬が改定されました。昨年の12月時点で厚生労働省から改定率に関するプレスリリースによって既にご存知の方も多いと思いますが、念のため各科や本体部分と薬価部分の改定率を掲載します。

診療報酬本体は、+0.49%の改正。各科の改定率は以下の通りです。

  1. 医科 +0.56%
  2. 歯科 +0.61%
  3. 調剤 +0.17%

薬価等 -1.22%

材料価格 -0.11%

歯科に関係するところでは、新規収載された後発医薬品の価格の引下げ、長期収載品の特例的引下げの置き換え率の基準の見直し、費用対効果の低下した歯科材料(歯科用アマルガム等)の適正化の措置があります。

訪問診療料の自己負担額の変更
歯科訪問診療料
[その他は、後日投稿予定]

厚生労働省 診療報酬改定 プレスリリースはこちら

平成28年度診療報酬改定の基本方針

平成27年12月に社会保障審議会医療保険部会及び社会保障審議会医療部会により示された基本方針は以下の通り。歯科関係箇所を一部抜粋。

・超高齢社会における医療政策の基本方向
・地域包括ケアシステムと効果的・効率的で質の高い医療提供体制の構築
・経済成長や財政健全化との調和
上記の基本方針から、改定に関しての基本的な視点と具体的な方向性は以下の通り。

  1. 地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点
    ・地域包括ケアシステム推進のための取組の強化
    (1)複数の慢性疾患を有する患者に対し、療養上の指導、服薬管理、健康管理等の対応を継続的に実施するなど、個別の疾患だけではなく、患者に応じた 診療が行われるよう、かかりつけ医やかかりつけ歯科医の機能を評価
    (2)医療機関間の連携、医療介護連携、栄養指導等、地域包括ケアシステムの推進のための医師、歯科医師、薬剤師、看護師等による多職種連携の取組等を強化
  2. 患者にとって安心・安全で納得できる効果的・効率的で質が高い医療を 実現する視点
    ・ 複数の慢性疾患を有する患者に対し、療養上の指導、服薬管理、健康管理等の対応を継続的に実施するなど、個別の疾患だけではなく、患者に応じた診療が行われるよう、かかりつけ医やかかりつけ歯科医の機能を評価
  3. 重点的な対応が求められる医療分野を充実する視点
    口腔疾患の重症化予防・口腔機能低下への対応、生活の質に配慮した歯科医療の推進

超高齢化社会の歯科医療体制の在り方として、「かかりつけ歯科医の機能として、口腔疾患の重症化予防・口腔機能低下への対応、生活の質に配慮した歯科医療の推進の為、療養上の指導、服薬管理、健康管理等の対応を継続的に実施するよう医療機関間の連携、医療介護連携等を強化する」ことが取りまとめられています。

医療機関間の連携、医療介護連携による他職種連携について、対応可能な歯科医療機関をお探しの病院、介護施設等の関係者の方は、対応エリアをご参照下さい。

[Q&A]食後すぐの歯磨きは良いの?悪いの?

数年前からテレビ番組やインターネット上では~食後すぐの歯ブラシは歯を削ってしまうので良くない~という報道や、記事が増えています。詳しく調べてみると、アメリカの歯科医師が食事中に炭酸や酸性ソフトドリンクを飲んで食後20分以内に歯ブラシするとエナメル質や象牙質に酸が届き易く、飲まない時に比べて歯を早く溶かしてしまうというインタビュー記事がきっかけとなっているようです。

しかし日本において、また特に高齢者がご自身で作る食事や介護施設で提供される食事で、こうした炭酸や酸性ソフトドリンクを飲みながら食事するという習慣はあまりないように思います。

そもそもお口の中は食後すぐに酸性となります。その後は唾液の緩衝作用により1時間程かけて徐々に中和され、カルシウム等が供給されることで再石灰化が行われます。一方で食事によって栄養素が取り込まれた温かく湿ったお口の中は、ウイルスや細菌の増殖に最適な環境です。

歯の摩耗を心配するよりも抵抗力や唾液分泌量が低下しやすい高齢者にとっては、出来るだけ早く口内清掃を行ってもらうことの方が大事です。

からだを守る唾液の働き

唾液を使ったことわざには「天に唾する」「眉に唾をつける」「唾で矢を剥ぐ」等があります。決して良いイメージではないですが、本来の唾液は良い働きを幾つも持ち、高齢者にとっては窒息事故を予防する存在でもあります。

まず唾液の成分ですが、99.5%が水分です。その他の0.5%にカルシウムや、リン酸、タンパク質等が含まれています。ラクトフェリンを摂取し続けると風邪を引きにくくなったという宣伝を見たことはありますか?ラクトフェリンは実は皆さんの唾液にも含まれている糖タンパク質です。唾液だけでなく母乳等にも含まれ、殺菌・抗菌の働きをします。その他にも歯の再石灰化や消化作用を持っていることは広く知られていますが、高齢者に多い口の渇きに唾液の潤滑作用や湿潤作用が働くことで、お口を乾燥から予防するだけでなく、食べ物による窒息事故からも守ってくれているのです。

成人の1日の唾液分泌量は約1.5ℓと言われています。しかし高齢者になると0.5ℓ程度との報告もあり、全身疾患や薬、口腔機能の低下によって唾液分泌量は減少していきます。唾液が減少すると、噛めない、飲み込めない、味を感じにくい、発声がしづらいと感じます。結果として美味しくない、噛みにくい為に食事量が減ったり、人との会話が減ることで生活の質が低下するだけでなく身体にも悪影響を与えます。周囲からは口臭が強い、食事の時間が長い、話しが聞き取れないと感じたり、何度調整しても入れ歯が合わないことも。

唾液は、食べる時によく噛んだり、話したり、清掃を行うことで分泌量が増えます。寝たきりや非経口栄養摂取の方も口腔ケアを行うことによって唾液の分泌が促され、ドライマウスや肺炎の予防につながります。

唾液の持つ多くの作用とは

  • 殺菌・抗菌作用
    タンパク質の抗菌物質が、細菌の細胞壁を溶かしたり、生育にかかせない鉄分を奪う等の殺菌、抗菌効果を発揮します。
  • 歯の修復・再生作用
    歯の表面に薄い膜を張り、酸により歯が溶け出すことから保護し、カルシウムやリン酸が歯を修復します。
  • 消化作用
    アミラーゼ(酵素)がでんぷんを糖に分解し、消化を促す。
  • 緩衝作用
    酸は歯を溶かします。食事により口内のpHが酸性になりますが、唾液が中和してくれることで細菌の繁殖を抑えます。
  • 洗浄作用
    食事中だけでなく常に唾液を分泌し、口腔内の汚れを洗い流す。
  • 潤滑作用
    食物を飲み込み易く、また滑らかに発声出来る様に潤す。
  • 溶解作用
    食物の味を感じ易くする為に、味覚物質を溶かす。
  • 湿潤作用
    適度な粘性を持つムチンによって、粘膜を乾燥から防ぐ。

インフルエンザ予防となる専門的口腔ケア

乾燥するこの季節には感染症が蔓延し易くなります。日本においては例年12月~3月がインフルエンザの流行する期間です。感染しないための手洗いやうがいは細菌やウイルスが口に入り込まないようにする為の予防策であって、口腔内を衛生的に保つことも感染予防の有効な手段です。感染経路には以下の3つがあります。

  • 飛沫感染
    他人の咳、くしゃみ、会話等で飛び散った飛沫粒子によって感染する場合
  • 接触感染
    感染者の咳、くしゃみ、鼻水などがついた手でコップやドアノブ、スイッチ、手すり等に触れ、その後同じ箇所に触れることで間接的に感染する場合
  • 空気感染
    感染者の咳、くしゃみ等で飛沫したごく細かい粒子が空中に浮遊し、それらを吸入することによって感染する場合実はインフルエンザウイルスが乾燥を好む訳ではありません。のどの粘膜が乾燥に弱いに、ウイルスの侵入や増殖を防げないことが原因で発症します。

過去の気道感染予防の研究では、口腔内細菌を減少させることを目的とした歯科衛生士の行う専門的口腔ケアにより、唾液中の菌の数や日和見感染症起因微生物を減少させ、実施しないグループに比べて肺炎及びインフルエンザの発症を抑えることがわかっています。

※専門的口腔ケア・・・ご自身で行う清掃や、看護師、介護職員等が行う日常的な口腔ケアではなく、歯科医師や歯科衛生士等の専門職が行う口腔ケアを指します。

不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)

肺炎を引き起こす、不顕性誤嚥

「不顕性誤嚥」とは、漢字からも推測できる通り、~誤って飲み込んでいるのが目に見えない~という意味です。誤嚥性肺炎を頻繁に引き起こす方に多く、またむせたり、嘔吐したりと反射機能が正常に働いていれば、気管に飲食物や胃の内容物が誤って入っても喀出することが出来ますが、認知症の進行や、服用している薬、寝たきり状態が続くと、気管に入っても何の反射も見られずにそのまま肺まで流れてしまうことがあります。

これを不顕性誤嚥と言います。不顕性誤嚥は、経口摂取している、していないの有無に依らず、夜間就寝時でも起こり得る症状です。

具体的には夜間就寝中に、お口の中が不衛生で細菌やウイルスなどの病原微生物を含んだ唾液が本来は食道に流れなければいけないところ、嚥下機能の低下によって気管に流れ込んでしまい、結果として肺炎や夜間の急な発熱を引き起こしたりします。

[Q&A]入れ歯は寝る時に外す?つけたまま?

入れ歯を寝るときにつけていないと不安という方が居れば、違和感を感じるので外して寝たいという方もいます。歯科医師が普段と逆の指導をしたとしても、長年の生活習慣はそう簡単には変えられないものです。

では就寝時の義歯装着は、付ける、付けない、どちらが正しいのでしょうか?

歯茎や粘膜を休ませるためや、小さな部分入れ歯や、適合せずに外れやすい入れ歯など、その時の状態や形状によっては誤飲する可能性があるために外しておく等、装着しないことを勧める場合があります。逆に、噛み合わせに不具合が生じるから出来るだけ装着しておく場合や、顔の形が変化する、夜間の緊急時に持ち出し忘れがない、紛失しない為という理由から装着を勧める場合もあります。

最近では嚥下機能の観点から「噛み合わせがあると飲み込みが良くなる」ことから、常時装着を勧める場合が増えてきています。

結論としては、入れ歯の形状や、ご自身での管理能力の可否、体の状態(飲み込みや、噛み合わせの状態など)を考慮しながら、当然ご本人の使用感に対するこだわりや、夜間装着感の感触なども含めて総合的に判断した結果が、その方に最も適した装着方法となります。

専門家の介入が肺炎予防に

介護施設に入所する要介護高齢者に対して、専門的口腔ケアを実施したグループと、実施しないグループに分けて2年間にわたって調査した結果が下記のグラフです。

グループのいずれも介護職や、看護師による毎食後の口腔ケアを行っています。その他に週1回、歯科医師及び歯科衛生士による専門的口腔ケアを加えて実施したグループと、そうでないグループを、同じ指標で比較したものです。

発熱発生率、肺炎発症率、肺炎死亡率を専門的口腔ケアで大幅減少

専門的口腔ケアを実施したグループは、全ての指標で明らかに減少していることを示しています。その中でも肺炎死亡率は、専門的口腔ケアによって約54%も減少しています。こうした結果から研究者らは普段の口腔ケアに加え、専門家が介入して実施する専門的口腔ケアを併せて実施していくことが肺炎予防につながると結論付けています。

誤嚥性肺炎の起炎菌となっているのは歯周病菌などの口腔内常在菌です。特別なことがなくても負担からお口の中にいる菌ということです。口腔疾患を治療せずに放置していたり、不衛生のままにしておくと細菌叢が増加し、肺炎リスクを高めてしまう結果となります。

高齢者に最適な歯ブラシの選び方

歯ブラシは色や形状のほか、毛束の量、植毛の硬さ、毛の材質の違いによってさまざまな種類が存在します。例えば、歌舞伎役者が出演する歯ブラシのCMでは、毛束の量が多い=贅沢ケア歯ブラシと謳っていたり、歯茎の溝に入りやすい極細毛先を謳ったり、ドラッグストアでは動物の毛を使用した高級な歯ブラシが手の届きやすいところに置いてあります。

では、高齢者にとって使いやすい最適な歯ブラシとはどういうものでしょうか?

まずは歯ブラシの各部位の名称をご説明します。歯ブラシの各部位の名称(植毛、タフト、ネック、ヘッド、ハンドル)

高齢者が使う歯ブラシ選びのポイント

  • 毛の硬さは「ソフト」
    エナメル質の減退によっては傷つき易くなっています。
    毛は出来るだけ柔らかい素材を選びます。
  • ヘッドの大きさは「コンパクト」
    開口が困難だったり、開口が小さい場合にも、ヘッドが小さいとお口の中に入り易くなります。
    ヘッドが大きいとブラッシングしたい箇所への圧力が分散してしまい、清掃能力が落ちます。
  • ハンドルは「ストレート」
    まっすぐな柄は持ち易く、且つ清掃したい箇所へまっすぐに毛先が届きます。またハンドルが太めだとご自身でも握りやすいので、握力が低下した方向けです。

植毛にも種類があります。

歯の数や目的によって適した植毛パターンは異なります。

  • 溝や歯間の清掃など細かい箇所の清掃に適しているのは  ⇒ 1~2列
  • 食べかすや、歯垢除去に重点を置く場合に適しているのは ⇒ 3列
  • 歯肉マッサージに重点を置く場合に適しているのは    ⇒ 多数列

歯がなくても、歯の根っこが残っている箇所にもブラッシングは必要です。また歯肉マッサージは歯ぐきの血行を良くする効果もあります。

※個別の状態や症状などを考慮しておりませんので、歯ブラシ選びの参考にして下さい。
※お口の中の状態は人により異なりますので、かかりつけの歯科医師や歯科衛生士に相談してみましょう。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

ご存じですか?誤嚥性肺炎

国の統計によると「肺炎」は、悪性新生物(がん)、心疾患に次ぐ第3位の死因です。これは脳梗塞(のうこうそく)や、脳卒中(のうそっちゅう)などの脳血管疾患を上回っています。

「誤嚥性肺炎」死因別死亡数の割合 平成26年度 人口動態調査

肺炎は、ウイルスや細菌などの病原微生物が肺に感染し、炎症を引き起こして発熱などを起こす病気です。病原微生物は鼻や口から空気とともに気管に侵入しますが、健康な場合は抵抗力があるために体内の防御反応によって排除され、肺まで到達せずに発症せずに済む場合もあります。しかし病気や加齢、粘膜の乾燥によっては免疫力や、抵抗力が低下して、防御機能が正常に働かずに、結果として肺炎に罹ってしまいます。

この肺炎は、原因となる細菌やウイルスや、他の全身疾患が原因となるものなど多くの種類があります。その中で高齢者にとって割合の多い肺炎の中に「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」があります。誤嚥性肺炎とは、嚥下機能の低下などによって食物や胃の内容物が誤って気管に入り、肺に到達することで炎症が引き起こされる肺炎の種類です。

70歳以上の高齢者が一般の生活の中で発症した肺炎のうち、80.1%が誤嚥性肺炎であるという調査結果もあり、高齢者にとってはより身近で、注意しなければいけない病気です。高齢になると肺炎発症による身体的、精神的負担は非常に大きくなり、入院となるとご本人だけでなくご家族にも負担が増え、経済的な負担も増えます。

誤嚥性肺炎の予防方法とは